忘れやすいことでトラウマを抱えず、自閉症にもならずに済んでいる。
いつも良書を紹介してくれているブロガーさんが「忘却の効用」という書籍を紹介していました。
忘れられないことが自閉症になる原因、忘れることでPTSD(心的外傷後ストレス障害・トラウマ)を回避している‥というようなことが書かれています。
トラウマを忘れることのメリットは想像が付くけど、忘れることと「自閉症」に どんな関係があるのか気になるね
この書籍の気になった部分のみ、ネタバレありで紹介します。
・自分に自閉症の疑いがある、自閉症の人との関係に悩んでいる方
・忘れっぽいことで悩んでいる方
・トラウマに悩まされている方
・すべてを詳細に記憶できる人(忘れない人)には、どんなことが起こるのか?
・アルツハイマー症と老化による忘れっぽさの違い
・記憶に関する脳の仕組み(空間・名前・画像の一致)
・自閉症の人が見えている世界(カテゴリー分けできない、光や構図が違うだけで別のものに見える)
・海馬が発達した記憶力のいい人と、自閉症で記憶力のいい人の違い
・なぜAI顔認証は人間による顔確認に劣るのか?(2024年現在の話)
・トラウマを抱えやすい人と、抱えにくい人の違い
・忘れっぽい医師が名診断医になれた理由
・過大も過小もしない「メタ認知」が最重要な理由
※この記事の執筆者は医療の専門家ではないので、間違いがあったらゴメンなさい
すべてを詳細に記憶できる人(忘れない人)には、どんなことが起こるか?
・カテゴリー分けができない
・柔軟性がなくなる、変化に恐怖する
・変化に対処するのが遅くなる
・嫌な記憶(トラウマ)に囚われる
‥このようなことが書かれています。
後の方で詳しく書いていますが、(非病気の)忘れっぽい人は‥
・詳細に覚えられないことで要点(カテゴリー)だけをピックアップできる
・要点をピックアップできるから対処するのが早い
・いったん忘れることで、変化に応じて容易に書き変えられる
・嫌な記憶(トラウマ)を忘れることで精神が安定する
・・このようなメリットがある。(非病気の)忘れっぽいことは正常な機能だと著者はいいます。
ただ「嫌な記憶≒危険なこと」を忘れるのはデメリットもありますよね
たとえば、若いころに車で無謀な運転して、事故って大ケガをした記憶などを忘れてしまうと、また繰り返してしまうからね
絶えず移り変わり、恐ろしくて辛いこともある世界で生きるため、私たちに与えられた能力が忘却なのだ。
忘却の効用より
変化しつづける環境に適応できる柔軟性を得るため、頭の中に散らばっている情報の山から抽象概念を抽出するため、木をみて森をみるために欠かせない。
短時間で忘れてしまう事のメリット「柔軟性」
「いったん忘れることで、変化に応じて容易に書き変えられる」については多様性の科学という書籍でも似たようなことが言われていました。
プロvs素人のトランプ「ブリッジ」対決で通常ルールなら当然プロが勝つが、ルールに少し変更が加えられると素人はルール変更に柔軟に対応できたが、プロはルール変更に対応するのに時間がかかったという結果が示されていました。
熟練者ほどステレオタイプ(思い込み)になるからでしょうかね?意思に反して勝手に身体が動くみたいな‥
私事ですが‥今までの内容から自分も軽い自閉症の傾向があるだなぁと思いました‥。
ネガティブな内容をふくむ記憶力はいいけど柔軟性に欠ける点という特徴があるので。要点を抽出するのも苦手だったりしますし(^^;)
フィクション伝奇集「記憶の人、フネス」に起こった悲劇
書籍の中でホルヘ・ルイス・ボルヘスという方の伝奇集に収められている「記憶の人、フネス」の物語が紹介されていました。
ざっくり概要↓
・馬から振り落とされて脳に障害を負う主人公フネスの話
・脳に障害を負ったため何事も忘れることができなくなった
・ありとあらゆる物事を一瞬で記憶し、思い出すことができる
・前に読んだ本を暗唱したり、新しい言語をほんの数日でマスターしたりできる
・超高解像度の写真的な記憶を脳に貯蔵できるのと同じ
・ただし、要点を抽出する能力が失われた
・横や正面から見た同じ犬を同じ犬と認識できない
・また夕日の中にいる犬と夜の月明かりに照らされた同じ犬も「同じ」と認識できない
・つまり光の角度や色、構図は別物として脳内に保存されている状態
・思い出そうとする度に、「詳細な」記憶が脳の中でドッと押し寄せるので混乱を招く
・一般的な記憶力を持っている人は別の角度だろうが、光のあたり具合だろうが(同じ犬なら)大体認識できる
・一般的な記憶力を持っている人は特徴を記号化して、要点を抽出できる
木をみて森がみえない状態。
記憶力が良すぎる自閉症者もフネスと似たような世界にいるから、変化に恐怖している(嫌う)=同一性を求めると書籍内で言われていました。
自閉症者とフネスのすこし違う点は‥
自閉症と診断した多くの子供はフネスの場合と同じく、驚異的な記憶力を持っていたが記憶できるのは大抵、1種類の内容に限られていた。
忘却の効用より
そのような記憶は創造的な連想が働かないもので機械記憶と呼ばれることがある。
曲を1回聞いただけで歌詞や旋律を丸暗記したり、数字の長いリストを一気に暗唱したりするのは機械的記憶の例だ。
自閉症者が絵や音楽分野などで才能を発揮するのが何となくわかるね
あとの方でまた詳しく出てきますが脳の「忘れる機能」が極端に下がると、このような自閉症みたいな症状やPTSD(トラウマ)の症状になるそうです。
この忘れるの機能を活性化させるために心理療法や薬があるわけですね。
フネスの物語を知って著者も驚いていましたが、科学より先にフィクションの物語が事実を言い当ててしまうこと。
自分も漫画「こち亀」や「ドラえもん」などで読んできましたが、作家さんの未来を予想・想像する力ってホントに凄いですよね
ちなみに記憶の人、フネスは後にどうなったか?
「明かりもつけず物音1つしない部屋に引きこもって、残りの人生をすごすことになる」‥と書かれていました。
何も忘れられないフネスは人生で絶えず生じる変化から逃れる唯一の術は、薄暗く静かで変化のない部屋に引きこもり、生活をルーティン化して、感覚への負担を最小限に抑えることだと気づいたのだ。
忘却の効用より
ここでちょっとした疑問が生じますが‥
一般的な記憶力を持っている人でも歳をとると変化を嫌うという傾向があらわれますよね(もちろん、そうでない人もいる)。
コレとは関連がないんでしょうかね‥?
この場合は、新しいことを始める→エネルギーを使う→歳のせいで気力や体力が落ちている→エネルギー消費を抑えるため変化を嫌う‥という感じで別物なのかな。
自閉症の人が見えている世界~認知の混乱を抑えるために同一性を求める
前述のフネスの件で わかるように‥
自閉症者の多くが不安をまねく認知の混乱を鎮めようとして必死に同一性を求める。
忘却の効用より
(中略)
もし心が融通のきかないものだったら、どれほど困るかは容易に想像できる。
目まぐるしく変わり続ける世界に対応するためには既存の記憶が次々に変更されていくことが不可欠だ。
自閉症者の脳内のこと(医学的なこと)も書いてありました。
※この記事の執筆者は医学の素人なので、間違いがあったらゴメンなさい
・脳内にある「樹状突起スパイン」で働くタンパク質を作り出す遺伝子が多い
・この遺伝子が変異すると、異常タンパク質が作られて自閉症を発症する可能性がある
・この異常タンパク質が忘却を促進するのを妨害している
・つまり、自閉症者は忘却のボリュームが下がっている状態
ほかには、サヴァン症候群のことも書かれています。
サヴァン症候群の人は ある特定の分野で驚異的な認知能力を持つが、その他の分野では平均より劣る人のこと。
驚異的な認知能力の例:本を一回読んだだけで内容を丸暗記できる、曲を一回聴いただけで完全再現できるなど
サヴァン症候群の人が得意とする記憶は、海馬の機能が優れている人の得意な記憶と種類が違う。
忘却の効用より
海馬は場所や物体や時間といった要素同士を結びつけて記憶を再構成する。
だが、もう一度言えば自閉症者が特別な能力を示すのは このタイプの記憶ではない。
それどころか、海馬の機能を調べる標準の記憶検査を行うと自閉症者の成績は多くの場合、自閉症者でない人を下回る。
長期記憶は得意だけど、短期記憶がまるでダメな自分のことのようです(^^;)
教えられたことはすぐ忘れるけど、なぜか長期間を経てから覚えているという。
この話を学生のとき同級生に話したら「?」みたいな顔をされましたし、特殊な例なんでしょうね。
(自分の場合、後で出てくるヘンリー・モレゾン氏のように海馬の機能が弱いのかもしれません)
海馬の役割について↓
海馬は特に短期記憶に関係があり、新しい記憶は、まず海馬に保存されます。しかし、新しく覚えたことは、普段から使っていないと忘れてしまいます。これは、海馬が忘れてもよい情報と認識することで、人は忘れるとされています。
海馬とは?!記憶をつかさどる脳の海馬について徹底解説より
逆に、普段からよく使う情報に関しては、海馬で一時的に保管された後、大脳皮質に移動します。大脳皮質には、長期記憶として大事な情報が保管されるといわれています。このように、海馬は定着する前の情報を一時的に保管する場所として、重要な役割を担っています。
https://brainsuite.jp/articles-kaiba
余談:AI顔認証と人間の目視での精度比較
余談ですが、スマホなどに付いているAI顔認証の話にも触れられていました。
2024年現在ではAIの顔認証の精度はあまり高くなく、帽子やマスクやメガネを付けたり、髪型が変わっていたり、人の顔の角度が変われば同人物と認識できないことも多い(今後の開発で どうなるかは分かりませんが‥)。
前述のフネスの話と似ていますね。
なので2024年現在は、同一人物の確認はスーパーコンピューターより人間(の目視)の方が得意なので、この役割が取って替わられることはない・・と言われていました。
ただ未来系のフィクション映画や漫画ではスーパーコンピューターがかなり発達した世界が描かれているので、やっはりスーパーコンピューター(AI)に取って替わられる気はしますがね‥(^^;)
色んな場所で撮影した色んな人の写真の中で、たとえばA子さんという人物を探し出すとします。
それぞれの写真に含まれている視覚情報には一貫性がないにもかかわらず、「あなたの心」はA子さんをすぐに見分けられる。
あなたの脳はA子さんを計算処理して認識する‥とありました。
当たり前のことだと思っていましたが、人間の脳って こういう面では高性能ですよね。
完全一致してないと同じものと認識できない=融通が利かない‥となるわけか、だからスマホの顔認証は弾かれる率が高い
海外の囚人が上記のような写真を撮られている理由もコレと似たような感じなんでしょうかね?(同じ服・角度・照明・背景)
最後にコンピューター科学者たちは過剰な精度の写真記憶を抑制すれば、この問題を克服できるということを学んだ‥と書かれています。
人間の目のような高性能な写真記憶≒顔認証が開発されるのは楽しみですね。
脳の海馬を切除された患者は どうなるか?→認知症と似た症状?
海馬の役割とは?(再度掲載)
海馬は神経細胞の結合をつくる役割を果たしていると言われ、短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる中期記憶を担う器官です。日常的な出来事や学習して覚えたことは、いったんこの海馬にファイリングされ整理整頓してから、大脳皮質という部分へ保存されていきます。つまり記憶を仕分ける司令塔なのです。
夢ナビより
https://yumenavi.info/vue/lecture.html?GNKCD=g008534
海馬を失った患者に起きた変化の概要↓
・てんかん発作を抑えるため、脳を部分的に切除された27才のヘンリー・モレゾン(H・M)氏
・切除された脳には海馬が含まれていた
・手術後にH・M氏は「意識的な」記憶を新たに形成することができなくなった
・手術後、「新たに」紹介された医師の名前を何度会っても忘れる
・たとえば、医師と会話している間は医師の正しい名前を呼んで会話することができた
・しかし、医師が病室を出て数分後に戻ってくると患者は医師の名前を憶えてなかった
・さらに、その医師に会ったという事実さえ思い出せなかった
・彼は人の「名前」と「顔」を関連付けることが二度とできなかった
・ただし、手術を受ける数か月前までの記憶はほとんど影響を受けず、無意識的な記憶を習得する能力も損なわれなかった
自身は医学素人ですが、認知症と似たような症状みえますね。
前に どこかで聞いた話ですが‥
一度見たり聞いたものは本来 脳内に貯蔵されている(記憶される)が、そこへの行き方が分からなくなっている状態だという話がありました(※おそらく同じ話ですよね?)
さらに、こんな事も書かれていました↓
海馬だけに病変のある患者は海馬を切除されたヘンリー・モレゾン氏と同じく、以前に見たことのある顔を提示されても見たことはないと「意識的に」否定するだろう。
忘却の効用より
だが、当てずっぽうで答えるように要求されると正解することが多い。
これは海馬以外の機能は正常だから‥という事が書かれていました。
海馬が機能していない人でも勘(本人の意識的には)での生活でも、なんとかなるってことかな‥
自給自足の生活か病院生活ならまだしも、健常者として人間社会で生きていくのはキツそうではありますね‥
扁桃体(へんとうたい)が活性化されるとトラウマで苦しむ?
扁桃体(へんとうたい)の役割とは?
扁桃体は、情動と感情の処理や直観力、ストレス反応に重要な役割を果たしており、主に、「恐怖」「不安」「緊張」「怒り」などのネガティブな感情に関わっています。 扁桃体は、何かを見たり聞いたりしたとき、その情報の内容というよりも、それが自身の命に関わるものであるかを意識に上がる前に一瞬で評価します。
心療内科の治療で重要な「扁桃体」とは?より
https://besli.jp/symptoms/%E5%BF%83%E7%99%82%E5%86%85%E7%A7%91%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%A7%E9%87%8D%E8%A6%81%E3%81%AA%E3%80%8C%E6%89%81%E6%A1%83%E4%BD%93%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F
扁桃体は記憶の味気ない事実「いつ・どこで・何を」に感情の色を塗る役割だと書籍で紹介されています。
論理ではなく感情ってことですね。
戦争などの悲惨な状況を経験してもPTSD(心的外傷後ストレス障害・トラウマ)を発症しない人もいる。
いっぽうで、東日本大震災の取材でPTSDを発症した人もいる。
この違いは扁桃体を抑制できているか?否か?=忘却が働いているか?によって違うそうです(後述)
共鳴力が高い人(影響されやすい人)がPTSDになりそうなイメージだけど、それも違うみたいだしね
これも後述になりますが、扁桃体の抑制にはオキシトシンという物質が関わっているようです。
書籍では、ある作家の言葉が引用されていました。
「幸福は白い紙に白いインクで書かれている」
書いた直後は覚えていても、月日が経つと(白い紙に白い文字で書かれているため)読めない=何を書いたか忘れてしまうという上手い例えですね。
PTSD(トラウマ)にはオキシトシンが有効?
オキシトシンとは?
オキシトシンは「幸せホルモン」と呼ばれ、人や動物とのスキンシップによって分泌が増えるといわれています。幸せホルモンを増やすことはストレスや不安な気持ちの軽減に役立ち、毎日を幸せに送ることにつながるかもしれません。
オキシトシン・セロトニンの分泌を増やす。食で幸せになる方法とは より
https://www.kanro.co.jp/sweeten/detail/id=2643
何度か このブログでも書いていますが、SNSで動物のかわいい画像を無限にみてしまう理由がそうですね。
しかし、現状に不満を抱えている人が幸せそうな画像や映像をみると、より孤立を感じてネガティブで黒い気持ちになるという事実もあります。
これは私の予想ですが‥「人と違うと感じる」から孤立感があるが一番しっくりきます。
イケメンや美人が色々と苦労する話でも分かるように、まわりより優れていても、劣っていても孤立感がある。
みんなと同じがいい→社会性の高い生き物は厄介だよね‥
他には出産や授乳、「一杯目の」飲酒でもオキシトシンが分泌されるそうです。
PTSD(トラウマ)を発症する人・しない人の違いは何か?
書籍では、いじめっ子の話が紹介されていました。
ざっくりした概要↓
・あなたは学生時代にイジメにあったとする
・あなたはイジメっ子の写真を「数十年後に」みた
・学校に通っていたころと同じか、少なくともそれに近い感情がわき起こり、恐怖をもろに再体験する
・いまも当時のように暴力的な怒りに陥って、冷静な思考力が働かなくなった
・しかし、同じような条件でも上記のような強烈なフラッシュバックに陥らない人もいるのは なぜか?
臨床医の話では強烈なフラッシュバックをするような人たちは、記憶ネットワーク全体が異常に活発になってる可能性があるといいます。
いじめっ子の顔や名前、いじめられた時期や場所の情報を貯蔵していた大脳皮質のハブと、この記憶に戦いたい、もしくは逃げたいという強い感情を吹き込んだ皮質化のハブが共に活性化したということだ。
忘却の効用より
あるいは長年ののちに、これらの一部のハブ同士が過度に結びついてしまったという可能性もある。
さらに海馬が解剖学的な原因部位である可能性も考えられる。
※ハブとは、もの同士をつなげるケーブルのようなもの
今までの流れから察するに、忘却のボリュームが下がっているということだね
つまりPTSD(トラウマ)を発症させないためには扁桃体の活動を抑制する=オキシトシンをたくさん分泌する必要があるということですね
書籍は医学・科学的なことで書かれていますが、要は「あなたが幸せになったらフラッシュバックが起きなくなる可能性が高い」と言っているようなものですね。
しかし、過度に結びついてしまった一部のハブ同士、または海馬が原因の場合、フラッシュバックが治る可能性がないのか?という疑問も生じますね。
あと、イジメにあう(不幸)→幸せになる→何らかの原因で不幸になる‥という流れになった場合は、「またイジメのトラウマがよみがえるのか?」という疑問もある。そこの部分はリセットされるのかな?
自身の経験談では‥
子供時代~20代のときに住んでいた街はあまり良くない記憶が多かったので、その街に用事があって行くとイヤな気分になりますね(正確にいうと軽くフラッシュバックも起きる)、住むのはもってのほか。
しっかりトラウマになっている‥。
PTSD(トラウマ)を防いだ著者の体験談と、PTSDを和らげる可能性のあるものなど
じつは著者のスコット・A・スモール氏はイスラエル出身で、兵役のため戦闘軍人も経験しているそうです。
当然、戦争の凄惨(せいさん)な面も経験しているが、著者はPTSDを発症することはなかった。
※ほかのイスラエル軍人たちの一部は(PTSDのため?)アルコールや麻薬依存になったそうです
著者は、「どんなことをしたから依存症やPTSDにならなかったのか?」などが書かれていました。
ざっくりいうと以下2つ↓
①自分のモヤモヤをユーモアを交えて暴露した
②戦時中にも、その後にも自分が安心できる場所(仲間)がいた
言いづらいけど、これに加えてサイコパスみたいな人もPTSDにならないイメージがあるよね
著者は自国と敵国の関係に不満があり、皮肉をこめた寸劇を皆のまえで披露していたそうです。
これが暴露療法につながった可能性があるとのこと。
記憶に含まれている感情的な部分を何度も演じたことによって記憶をユーモアに浸し、血の色を漂白したのだ。
忘却の効用より
私は行ったことがありませんが、教会には懺悔室(ざんげしつ)のようなものがあり、自分の犯した罪を牧師やシスターに聞いてもらって許しを乞う‥というようなシステムがあるそうですね。
暴露療法は、これに近いのかもしれません。
人に話を聞いてもらうのもいいかもしれませんが、経験上、自分の頭の中にあるモヤモヤを「文章化」するのもオススメです
結構スッキリしますね
あとは前述している孤立に関すること。
兵士がPTSDを発症する最大級のリスク要因の一つはトラウマを経験して間もない頃に、自分がひとりぼっちで孤独だと感じ、孤立を防ぐ社会的仕組みがない中で、心が苦悩や恐怖や不安で がんじがらめになることのようだ。
忘却の効用より
著者の話では、戦闘の凄惨な内容は元軍人仲間でも(暗黙の了解で)タブー視されていたそうですが、それ以外では戦時中も その後も仲良く交流していたそうです。
上記のほか、現在PTSDを和らげる可能性があり研究が進められているもの↓
・アルコール
・麻薬(マリファナ等)
・MDMAなどの薬物
・・書籍でも指摘されていますが、PTSDが和らいでも別の副作用で苦しむものばかりですね。
なので、感情の忘却という能力を高めるシンプルでリスクの少ない方法とは‥
①人付き合いをすること
②人生にユーモアを与えること
③愛に満ちた人生を送ろうと常に心がけること
・・と、まとめられています。
自身の経験からいうと、たとえば対人関係(イジメや毒親など)でトラウマを抱えた人が①~③すべてをするのは難しい気がします。いい人との出会いが必須。
自分の場合は、①の難易度が高い(表面上の付き合いは可能)。
チンパンジーとボノボの扁桃体~恐怖と怒りはつながっている?
書籍には、暴力的なチンパンジーと友好的なボノボの違いについて触れられていました。
長くなるので簡単に説明すると‥
両種とても賢く似ている存在だが、チンパンジーは上下争い・メスの奪い合いなど過酷な状況下で過ごしてきたため暴力的(恐怖と怒り、孤独に満ちた)になったこと、ボノボはチンパンジーと真逆な状況下だったので社会性があり友好的であること。
チンパンジーとボノボの脳を調べてみると、ボノボに比べてチンパンジーの扁桃体が大きいことがわかったそうです(扁桃体は樹状突起スパインの成長で大きくなる)。
※ただし野生か、飼われているかでも多少の違いが出る
チンパンジーの大きな扁桃体は年がら年中、恐怖と怒りの中で生きているうちに生じたもの、つまり感情的な脳で瘢痕化(はんこんか)が起こった結果みなせるかもしれない。
忘却の効用より
チンパンジーの社会がいかに残酷で無慈悲なものなのか、そして多少の擬人化を許容してもらえば、チンパンジーがいかに多くの苦痛を感じて、多くの屈辱に耐えているかを物語っている。
思わずボノボのような気分になって、チンパンジーの狂暴で孤独なボスたちにも、怯えて萎縮した子分たちにも同情してしまう。
※瘢痕化(はんこんか)~傷が残ること
人間はチンパンジーのようになってはダメだということが言いたいのかな?
ただし書きがあって、チンパンジーのそのような特性は過酷な環境に耐えるために備わったものなので、ボノボのような性格だったら とうの昔に絶滅していた可能性があるとのこと
逆に、ボノボたちの環境が過酷だったならボノボが暴力的になっていたかもしれない‥ということでもありますね。
いま流行りの親ガチャ・環境ガチャみたいな話ですね。
心身暴力的な親に育てられた子が異常に狂暴になるのも うなずける。
その後、安全な居場所を作ったら(行ったら)、本人たちの性格も穏やかに変わるのか気になるところですね。
ちなみに、トラウマを促進する扁桃体が損傷を受けると どうなるのか?の話もされていました。
不慮の事故によって扁桃体が損傷したり、実験で扁桃体を損傷させたりすると恐怖に対する反応が消失することが発見された。凍結反応も逃走反応も闘争反応も起こらないのだ。
忘却の効用より
危険の感知に関与する ほぼ全ての脳領域が扁桃体に集中している。
動物は失敗して(痛い思いをして)、学習して成長する・自分の命を危険にさらさないようにする部分もあるので、恐怖を完全に取り除くのがいいことなのか、悪いことなのかの判断は難しいところですね。
恐怖と怒りの周囲への伝染について(凍結・逃走・闘争)
動物は恐怖を感じると‥
・固まる→凍結
・逃げる→逃走
・闘う→闘争
・・のどれかの選択をするそうです。
「凍結」と「逃走」と「闘争」は行動として、どれほど異なっていても全て同じ体内のエンジンによって引き起こされるはずだということだ。
忘却の効用より
さらに怒りと恐怖は周囲に伝染するとも言われています。
心理学研究から恐怖と怒りは一方から他方に移行しうることが示されており、社会学研究から恐怖と怒りは同じコインの表と裏の関係にあり、人から人に伝わることが示されている。
忘却の効用より
・ある人の怒りが別の人の恐怖を引き起こし
・この恐怖が怒りに移行すれば、それが今度は最初の人の恐怖を引き起こす
・悪循環が永遠とつづく
フィクションの物語でも よく話題になる「イジメ」と「復讐」の話と同じですね。
扁桃体にブレーキをかけるのが前述のオキシトシン。
扁桃体にブレーキをかける仕組みは、反社会的行動を助長する恐怖記憶を忘れさせて、社会的絆を育むためだという可能性が高い・・と書籍で述べられています。
扁桃体が大きい人間(怒りっぽい・恐怖しやすい)は病気なのか?
人間のある状態を病的と見なすか、少なくとも治療するのが妥当だと考える一つの基準は、その状態が他者の生活に苦痛をもたらしているかどうかだ。
忘却の効用より
恐怖の忘却がもたらす恩恵がなければ、私たちは ひどく孤独な人生を送ることになるだろう。
フィクションの物語では王道の話ですが‥
たとえば、育ちがよくない人(恐怖と怒りに満ちている人)が他者を傷つける可能性を考慮して、あえて他人を遠ざける‥という話もありますよね。
上記の場合、この育ちがよくない人(?)は優しい人ということになるのかな?
人間の社会的な特性として、孤独や孤立に恐怖するのが普通ですし。
個人的な考えとしては、いくら優しくても孤立が過ぎるとバケモノに育つ可能性があるので、なんらかの対処は必要だと感じます。
本人が孤立を感じないのなら、(人じゃなくて)趣味でも動物でもいいと思いますし。
認知症やアルツハイマー症になったら死にたい?
アルツハイマー病にかかったら、殺して欲しいと言った自暴自棄な反応は誤解に基づくものだと分かっている。
忘却の効用より
患者や その家族が受ける苦痛を軽視せずにあえて言わせてもらえば、私が担当している軽度認知障害、さらには認知症初期の段階にある患者の誰一人として死にたいなどと望んでいない。
実は認知能力の多くが失われても、他の人々と関わり合って人生を楽しむことができる。
※アルツハイマー~記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気(初期症状は普通の認知症に似ている)
アルツハイマー症の基礎知識より引用↓
https://adinfo.tri-kobe.org/worldwide-alzheimers-information/alzheimers-basics.html
自分も手を付けられない病気になったら、〇して欲しいと思っていたが‥しかし、上記の例は軽度・初期だからなぁ
私たちは自分という存在を保つこと、すなわち自分の根幹をなす性格特性。
忘却の効用より
家族や友人と付き合う能力、笑ったり、愛したり、美しいものに心を動かされたりする能力には認知能力はそれほど必要ないということに気づいていないようだ。
・・とはいえ認知能力は私の仕事にとっては言うまでもなく、多くの職業にとって重要であり、その段階的な低下に伴い職業生活に支障が出ることもある。
これは人付き合いがツラくて、学業や仕事や趣味に「逃げて」いた人には特にキツイ話かもしれませんね。
プライベートな人間関係もダメで、仕事・学業・趣味もダメになるなら生きる意味を失う可能性が高い。
忘れっぽいことは「クリエイター」にとってメリットになり得るのか?
漫画家やデザイナーなどのクリエイターにはアイディア力がかかせない。
書籍には、忘却と創造性(アイディア力)を関連づける実験が紹介されていました。
※色んな書籍で引用されている実験です
①実験参加者を特定の言葉のペアに何度も触れさせる
②それら2つの言葉が強く結びついた記憶が形成される
③その後、彼らにどちらが一方の言葉とペアになる言葉をさらに考え出す課題をしてもらう
④予想されたとおり、当初は成績があまり良くなかった
⑤数日後に③の時点の実験をする
⑥すると日が経つにつれて成績が向上した
⑦日をおいて記憶が薄れたためだと思われる
たとえば、牛乳=白い・・という概念を実験参加者に記憶させると、牛乳から連想される他の単語が出てこないって感じかな?
牛乳=牛・低脂肪・酪農・パック・瓶‥とかですね
脳の仕組みから、一度覚えたものは大脳皮質に貯蔵されているそうなので、何かの拍子に思い出して ひらめきに似た感覚になる。
自身の場合、風呂やトイレ、寝る前、散歩や自転車に乗っている時にひらめくことが多い。
・・ということを考えると、短期記憶に問題がなく、長期記憶が良くない人(思い出せないだけの人)は頭が柔らかい確率が高いですね。
記憶から連想される物事同士が睡眠による忘却のおかげで ゆるくしか結びついておらず、他の要素と自由に結びつける状態の時に創造性が最も発揮される。
忘却の効用より
自分は文章も絵も描きますが、作品を何日か寝かせるのは こういう利点があるんだなと思いました。
睡眠と忘却は どう関係しているのか?
盛りだくさんの長い1日を終えた時には、とにかく「寝たい」という気持ちになる理由について書かれています。
どうやら疲労回復の目的だけではないようです。
十分な睡眠を取れば、樹状突起スパインがきれいに刈り込まれる。
忘却の効用より
それで脳はリフレッシュして、新しい日の出来事を記憶できるようになり、爽快な気分で目覚められるのだ。
眠れぬ夜を何度も過ごすと、気分が停滞して調子が狂う。
それは1つには、不要な情報で脳に負担がかかりすぎることが原因だ。
※樹状突起スパイン~情報を受け取る役割、成長しすぎると神経系に異常をきたす
睡眠は脳(記憶)を整理する時間だという話を聞いたことがありますね
睡眠関連の書籍にも書いてあったけど、本来なら有利な無睡眠生物が生き残れなかった理由でもあるのかもしれないね
「睡眠は多くの時間をつかう上、隙だらけになるのに野生動物はどうして眠るのか?」という興味をそそられる話が書かれている書籍です(現在、読んでいる途中)↓
忘れっぽい事で、バイアス(先入観)に打ち勝てる?
書籍には ある優秀な医師の「知的謙虚さ」という話がされていました。
後の方に詳しく書いていますが‥
生まれつき長期記憶力の悪い医師が「なぜ優秀な診断医になれたのか?」→「知的謙虚さがあったから」という話です。
医師は親しい人の診察禁止?~過小化バイアスとは何か
医師の過小化バイアス(先入観)について
過小化バイアスは愛する人々を治療したことのある同僚たちがよくあげる問題だ。
忘却の効用より
私たちはよく知っている人が何らかの症状を訴えた時、ともすれば それを軽視してしまい、話を注意深く聞かなかったり、深刻に受け止めなかったりする。
例えば、医師である私の友人は3歳の娘から いつも喉が渇くと訴えられたのに取り合わず、後になって娘が糖尿病だとわかった。
どのような対人関係も意思決定にバイアスを与えてしまう可能性がある。
もちろん、緊急事態が起きたときは医師は親しい人への治療や診察に関わるが、自分にかかっているバイアス(思い込み)を十分認識していなければならないと言われています。
上記の医師が自分の娘の訴えに取り合わなかったのは、子供のわがまま(?)みたいに思ってしまったわけか‥
家族だから大げさに言っているだけだろう‥って思い込みは、医療分野だけではないのかもしれないですね
たとえば、イジメを訴えた子供を軽視してしまって、取返しのつかないことになってしまった親の例もありますしね。
自分の能力を「正しく」理解している人は認知機能が優れている~メタ認知の話
自分の認知活動について認知的な能力だけでなく、バイアスや罠も含めて自覚する能力は「メタ認知 」と呼ばれる。
「たとえ自分が何らかの点で正常以下だと分かったとしても、自分について知ると満足感が得られることもある」
個人的に思うのは満足感だけじゃなく、生きるためのライフハックに役立ちますよね。
たとえば、
・自分は短期記憶が人よりダメ→頭を使うマルチタスクを避けて生産性を上げれる
・自分は疑い深く慎重な性格なので、物事の遂行が遅くなる傾向がある→失敗してもリスクが小さい場合は、とりあえず少しだけやってみる
・・などですね。
余談ですが‥合理的な判断やバイアスの認識に重要な脳部位は前頭前皮質というそうです。
前頭前皮質が十分に機能するようになるのは、10代後半か20代前半になってからだ。
忘却の効用より
子供は大人と同じように感覚情報の記憶や知覚や処理をおこなえるが、前頭前皮質が成熟していないので、論理的思考や決断がうまくできず、衝動をなかなか抑えられない。
このことを神経生物学者だけでなく、政策立案者も産業界のリーダーも知っている。
だから子供には選挙権を与えておらず、自動車保険会社は10代に高い保険料を課す。
少年犯罪の年齢引き下げの話題が日本でも上がっていますが、現状の20才以下では罪が軽くなるのはこういう理由からだったんですね。
大人でも育ちの影響で?衝動的に行動してしまう場合もあるし、その人の精神状態(どれくらい実行制御力が疲れているか)でも変わる。
メタ記憶が低い人ほどヤバイ事態を引き起こす?~交通事故の例
大抵の人は自分の記憶力が「悪い・良い・中間」どの程度だろうと認識している。
これをメタ記憶という。
そうでない人は記憶を失うだけでなく、記憶障害についてのメタ記憶も失う。
認知機能の崩壊によるダメージを最も受けやすいのは、自分の認知機能が悪くなっていくことがわからない
これらの患者だ‥と著者はいいます。
認知症になりかけの高齢者に「あなたは認知症になりかかっていますよ」といっても認めない例もそうなのかな?
認知症なのか身体能力が原因なのか不明ですが、私が思い出すのは やはり池袋の自動車暴走事故ですね。
身体にせよ認知機能にせよ、自分はまだ大丈夫という驕り(おごり)が招いた事件だったのかなと。
書籍内でも以下の認知症男性が起こした車の事故が引用されていました。
・患者は68歳の男性で認知症の悪化により2台の車を大破させていた
・メタ記憶の能力が低かったせいで男性は自分の認知機能が悪化していることを認めず、運転をやめようとしなかった
・男性の家族は裁判所に訴えるしか解決の手段がないと思った
・最終的に裁判官は男性に不利な判決を下した
・運転免許の取り消しを命じ、車を取り上げることを男性の家族に認めたのだ
・それは賢明な判決だったが、この件は関係する人全員にとって悲劇だった
最後の一文の「関係する人にとって悲劇」の意味がわかりませんが、書籍を読むかぎり死傷者を出していないようなので、どのへんが全員にとっての悲劇なのか?という疑問が残りますね。
※この認知症男性が将来、ひき〇していたかもしれない人の命を救えたわけですし、本人も死傷せずに済んだわけだし、家族も負い目を感じないで済んだという話だと思ったのですが‥
死傷者を出した池袋の暴走事故よりはマシな話じゃないでしょうか‥?
知的謙虚さとは何か?~ある名診断医の話
知的謙虚さがある人
・自分にかかるだろうバイアス(先入観)を理解して、対処できる
・自分の最初の判断に疑いを持ち、証拠などに応じて柔軟に考えを変えれる
書籍では、生まれつき記憶力(長期記憶のみ)が悪いと自称する名診断医X氏の話がされていました。
ざっくり概要↓
・X医師は名診断医として優秀な医師
・短期記憶には問題がないが、生まれつき長期記憶が悪いと自称する
・X医師は著者(神経科医)に自分の記憶力の悪さを相談し、正式な脳や知能の検査を受ける
・X医師は高いIQ数値を検査から叩き出した
・知能指数を評価するには複数の能力を総合的にみる必要があり、人それぞれ能力にバラつきがある
・記憶力、論理的思考、分析能力、メタ認知など
・X医師は上記3つ、論理的思考、分析能力、メタ認知の能力が高かった
・つまり自分の特性を理解していて、試行錯誤もできるし、柔軟に考えを変えれる(≒謙虚)能力もある
・記憶力をつかさどる海馬の能力だけが平均並みか平均を下回っていた
記憶力が良いためにPTSDや自閉症になる人たちと真逆だね
こういう特性があるならメンタルも強そうで羨ましいですね
さらにX医師について、(研修医時代の)こんなエピソードも書かれていました↓
最初の診断を信用しないことにしていたX医師は自分の担当患者を管理する合間に最終診断を決定するまでの数日を利用して、担当外の症例についても ゆっくり考えた。
忘却の効用より
自分は記憶力の良い研修医たちに比べて、複雑で難易度の高い症例では特に正しい最終診断を下す確率が高いようだと気づいた。
記憶力の良い研修医たちは最初の考えは あまり変えなかった。
診断が誰よりも早い医師ということではなく、最終的に最も正しい診断を下す医師ということだ。
似た話だったので再度引用させていただきますが、多様性の科学という書籍では「集合知」で推理の質を上げるという話題が出ていました。
・仮想の犯人捜しゲーム実験で、人々の証言や証拠などを集めて殺人犯を当てるゲームを何人かのグループを組んでやってもらう
・仲の良い友達同士のチーム→みな推理に自信満々だが成績が悪かった
・色んな立場の人を混ぜたチーム→みな推理に自信がなかったが成績が良かった
集合知+自分の考えを疑ったから推理の質が上がった‥という感じかな?
本当に能力の高い人や特定の分野の名手は、明言を避ける≒謙虚?と言われていますがX医師もこれなのかもしれません。
さらにX医師は「物語バイアス」も理解していたといいます。
物語バイアスとは、人生の出来事に「後で」一連の原因を結び付け事実でないストーリーや簡略化しすぎたストーリーをこしらえて都合よく解釈したいという欲求のこと‥と書籍で紹介されています。
結果論みたいな話ですね。
X医師は、記憶力の悪さが判断の質を向上させたという自分の作り出した物語は気休めであることも理解していたそうです。
X医師のメタ認知能力って、本当にすごいですね。
ただし、疑ってかかる頭が最終的な真実への到達に役立つのは間違いない・・と著者も述べています。
世間でよく言われる「お気持ちだけじゃなく、エビデンス(証拠)やデータを出せ」という反論も、まったくの間違いではないってことですね。
経験則と熟考について
以前読んだ「スイッチ!」という書籍で、脳の使い方を「象」と「象使い」に例えた話がされていました。
・象→頭を使わない経験則に基づいて行動したり、衝動的な行動をする
・象使い→衝動的な象を制御する、熟考するのが得意だがストレスがかかりすぎると象の力に負ける
つまり、行動経済学の先駆者ダニエル・カーネマン風にいうと、
・象→経験則に基づくすばやい判断が可能で、脳に負荷がかかりにくいが間違えることもある
・象使い→ゆっくりした判断しかできないが正確性が上がる、脳に負荷がかかりやすい
上記のことからX医師は脳に負荷がかかる思考をずっとしているわけですが、海馬(記憶力)が低いために脳に負荷がかかりにくかったりするんでしょうかね?
もしくは、脳に負担がかかる思考が当たり前になっているので、そこまで脳が疲労しない性質があるのかもしれませんね。
ダニエル・カーネマン著↓
余談ですが‥X医師の特性について、行動経済学ダニエル・カーネマンと神経科医である著者の対談も書籍内で出てきます。
カーネマンは、自分の最初の考えを疑い「柔軟に考えを変えること」=「知的謙虚さ」という言葉で言い表すことに疑問を持っていました。
これについては自分のなんとなくの仮説があります。
医者や教師のように先生と呼ばれる立場の方々は「自分の最初の考えを疑い、柔軟に考えを変えること」が難しいのではないかと予想しています。
周囲の期待・教える立場・失敗が許されない状況などが影響して、メタ認知が弱くなっている、または(悪い方の)プライドが高くなっているのではないかと。
失敗の科学という書籍でも、減らない医療ミス問題が取り上げられていましたし↓
生まれ持った能力ではありますが、X氏は医者なのにメタ認知を保持しつつ、良くないプライドも抑えていて、すごいですよね(^^)
読んでいて思ったのが、一番大事なのは「メタ認知」だなと。
自分の能力を過大も過小もせず「正確に」理解していればいくらでも戦えるんだなと思いました。自分がかかりやすいバイアスも意識できるし。
※ただし、能力の低さが重度の場合は対処のしようがないのかもしれない
メタ認知を完璧に維持するのは結構ムズかしいのではないだろうか?
本人の身体・精神状態によっても左右されるだろうし、他者から優秀な人だと思われたいという意識も働くし
我々みたいな弱い人間はメタ認知の存在を知って、その維持に努めるように意識することしかできないですね
余談:相手の名前を忘れるということの意味
前述した病気のため、脳の海馬を切除したH・M(ヘンリー・モレゾン)氏の話を再度させてもらうと‥
・ヘンリー氏はいつも礼儀正しかった(道徳的だった)が海馬の切除後、何十年も治療に当たってくれた医師を少しも気にかけなかった
・まったく気にかけなかったから医師の名前を覚えようともせず
・医師の公私生活についても一度も尋ねなかったらしい
・ようするに海馬を切除したことは意識的な記憶を形成する能力だけでなく
・倫理的な人間関係をきずく能力も奪ったのだ
記憶力にハンデがあるサイコパスみたいな話ですね。
海馬を切除する前は他者を気にかけるタイプだったのなら、治療の後遺症みたいなものだから仕方ないんじゃないの?
ヘンリー氏を治療した医師は(医療知識があるので)理解できるだろうけど、たとえば医療知識がない一般人はヘンリー氏の態度にショックを受けるかもしれませんね
名前を忘れることは、なぜかその人に関する他の事柄を忘れるよりも相手を大切に思っていないという印象を与える‥と著者はいいます。
D・カーネギ著作の「人を動かす」で、初めて会った人の名前を覚えようと努めることによって覚える気があるというメッセージを発信しているそうです。
時には相手を気にかけているように見せかけている。
自分の場合は記憶力がよかったおかげで その人の名前だけでなく、古い事柄でも覚えていることが多かった。
それで人間関係の構築に役立った部分もありますね。
ただし、
・他者への思いやりがある×
・フィクション物語をふくむ暗記力がいい〇
・・なだけ。
個人的には、最初から本性を見抜いた人がどれだけいるのかが気になる。
自分のメタ認知のために誤魔化さずにいうと、この私みたいなタイプは仕事や苦しい場面となると化けの皮が剝がれることが多い。
メタ認知を保ちながら、もうちょっと歳を取って記憶力が低下してきたら、性格も変わってくるんでしょうかね?
そもそも自身の扁桃体は かなり大きい気がするから無理か‥(^^;)
まとめ:恐怖の記憶はある程度手放すことで覚えておきたい記憶をより明確に思い出せる
・記憶が鮮明すぎる(記憶力がよすぎる)と自閉症やPTSDになる確率が増える
・自閉症者の頭の中が少し理解できる
・孤立はトラウマを増幅させる→オキシトシン(幸せ)を摂取せよ
・自分と他者の恐怖と怒りは連鎖する
・睡眠は記憶の整理に絶対必要
・自分のことを過大も過小もしないメタ認知は大事
記憶力はいいが柔軟性がなく、トラウマを抱えやすい自分のことを知れて良かったです。
自分の取扱説明書のページが また増えました(^^)
家族や親しい人に自閉症疑いのある方、アルツハイマーや認知症疑いのある方にもオススメな書籍だと思います。
余談ですが‥この書籍の訳者、寺町朋子さんは原作に すごくリスペクトがあるからなのか翻訳がめちゃくちゃ上手いなと感じました(経歴をみるに薬学や医療にも詳しいためだとも思われます)。
リスペクトから来る翻訳された書籍は、やっぱり読んでいて楽しいですね。
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